はじめに
「もし自分が入院することになったら、誰に連絡すればいいんだろう」——こんな不安を抱えながら生活している方が、実は日本中に数多くいらっしゃいます。身寄りがない、または身寄りが遠方にいる高齢者が急増している今、これは決して他人事ではない社会問題となっています。
増え続ける「おひとりさま」
驚くべき統計データ

- 65歳以上の単身世帯:約730万世帯(2020年)
- 単身世帯率:36.3%(3人に1人以上)
- 2040年予測:約900万世帯に増加
さらに深刻なのは、配偶者がいても「頼れる家族がいない」という方が増えていることです。子どもがいない夫婦、子どもはいても疎遠、あるいは子どもが遠方に住んでいて頼れない——そんな状況が普通にあるのです。
なぜ身寄りがない人が増えているのか

1. 家族構造の変化
未婚率の上昇
- 50歳時点での未婚率:男性約28%、女性約18%
- 生涯独身を選択する人の増加
少子化の進行
- 子どものいない夫婦の増加
- 一人っ子家庭の増加
核家族化の加速
- 三世代同居の減少
- 地域コミュニティの希薄化
2. ライフスタイルの多様化
キャリア重視の生き方
- 仕事を優先し、結婚・出産を選ばない選択
- 転勤や就職で地元を離れる
個人主義の浸透
- 自立した生活を望む傾向
- 家族に依存しない生き方の選択
3. 家族関係の変化
離婚の増加
- 熟年離婚の増加
- 再婚せず単身生活を続ける
家族との疎遠
- 長年の確執や価値観の違い
- 物理的・心理的な距離
現実に直面する困難

医療機関での壁
「手術の同意書にサインしてくれる家族はいますか?」 「入院費の保証人は?」
身元保証人がいないために、必要な医療を受けられないケースが発生しています。救急搬送されても、受け入れ先が見つからないという深刻な事態も起きています。
介護施設への入所困難
多くの介護施設が身元引受人を求めます。
- 契約時の連帯保証人
- 緊急時の連絡先
- 死亡時の身柄引き取り
これらが確保できず、入所を断られるケースが後を絶ちません。
日常生活の不安
急病のとき
- 誰に連絡すればいいのか
- 救急車を呼んでも入院手続きができない
- ペットの世話は誰が
認知症になったら
- 財産管理は誰が
- 悪徳商法から誰が守ってくれるのか
- 施設入所の手続きは
亡くなった後
- 葬儀は誰が
- 遺品整理は
- 住んでいた部屋の明け渡しは
社会が抱えるジレンマ
自己責任論の限界
「自分で選んだ生き方なのだから自己責任」という声もあります。しかし、誰もが健康で判断能力があるうちは良いのですが、病気や認知症になったとき、一人で対応することは不可能です。
制度の谷間
現行の社会保障制度は、家族のサポートを前提に設計されています。身寄りがない人への包括的な支援制度は、まだ十分に整備されていません。
生まれている新しい動き
民間サービスの登場
身元保証サービス 家族に代わって身元引受人となり、生活全般を支援するサービスが増加しています。
おひとりさま支援サービス
- 定期的な見守り
- 緊急時の駆けつけ
- 死後事務委任
地域での取り組み
コミュニティの再構築
- 地域のサロン活動
- 見守りネットワーク
- 住民同士の助け合い
自治体の新施策
- 身元保証制度の整備
- 地域包括ケアシステムの強化
社会全体で考えるべきこと

身寄りがない人の増加は、個人の問題ではなく社会全体の課題です。
必要な取り組み:
- 身元保証制度の公的整備
- 医療・福祉現場での柔軟な対応
- 地域での支え合いの仕組みづくり
- 孤独・孤立を防ぐネットワーク構築
まとめ

「身寄りがない」ことは、もはや特殊なケースではありません。誰もが将来、この状況に直面する可能性があります。
大切なのは:
- 現実を直視すること
- 早めの準備を始めること
- 一人で抱え込まないこと
- 社会全体で支え合う意識を持つこと
「まだ大丈夫」と思っているうちに、できることから始めましょう。元気なうちに準備することが、将来の安心につながります。
そして、私たち一人ひとりが、身寄りのない方を支える社会の一員であることを意識することも大切です。お互いに支え合える、温かい社会を作っていきたいです。

